市街化調整区域とは
一般的に「市街化調整区域の不動産は売れない」と思われがちですが、その理由をご存じでしょうか?市街化調整区域にある不動産でも、売却できる可能性は十分にあります。
まずは市街化調整区域について理解しましょう。
|市街化調整区域の概要
市街化調整区域とは、日本の都市計画法に基づいて、市街化を抑制し、無秩序な都市の拡大を防ぐために指定された地域です。原則として、この区域では新たな開発や建築が厳しく制限されており、農業や森林、自然保護など公共の利益に関わる特定の用途を守るための制約がかけられています。
市街化調整区域内の土地は、宅地としての利用が認められていない場合が多く、既に建物が建っている場合でも、再建築に関する制約が強いという特徴があります。特に、宅地として利用された土地でも、市街化調整区域に指定された後は「再建築不可」となるケースが多く、これは法律や規制により再度の建築許可が下りないためです。このため、建物が老朽化して取り壊す必要が生じた場合には、新たに建物を建てることができないリスクがあります。ただし、市街化調整区域内でも地方自治体に申請を行い、条件をクリアできれば建物の建設許可を得ることができるというケースも存在します。
|市街化調整区域の目的
市街化調整区域が設けられている主な目的は以下の通りです。
このような目的を通じて、地域の環境や経済、住民の生活の質を向上させることが市街化調整区域の設定意図になっています。
・コンパクトシティの実現
「コンパクトシティ」とは、生活利便性の維持・向上を目的とし、居住や生活サービス機能を立地のよい場所に集積するという政策です。高齢化が進み、将来の人口減少が社会問題になっている現在の日本で、コンパクトシティを実現することはインフラ整備や行政サービスの効率アップなどにつながります。また、コンパクトシティによって人口を維持することで、不動産価格も維持できるようになり、固定資産税収入も維持することができます。このように、コンパクトシティを実現するための一環として市街化調整区域が設けられています。
・自然環境の保護
市街化調整区域は街の開発を抑制するエリアなので、森林や河川、緑地などの自然環境の保全や生態系の維持、景観保護などはもちろん、都市開発が進むことによる環境破壊の防止を実現することができます。一方で、積極的に開発を進めることができる市街化区域を設けることで、街づくりを計画的にコントロールしています。
・農地の保護
市街化調整区域の指定は、農地を保護するという点において特に重要な役割を担っています。制限なしに無秩序な都市の拡大が進めば、農地がなくなってしまうことが懸念されるためです。また、市街化調整区域でも、農林漁業を営む人の住宅や設備などの建物は建築が許されており、許可なしで建てることができます。畜舎や温室、必要な道具を置く場所なども認められています。このように、市街化調整区域を設けることで、農地が無計画に転用されるのを防ぎ、農業経営の安定を図っています。
市街化調整区域の土地が売れない理由
実際に、市街化調整区域の不動産は売却が難しく、売却価格も低めに設定されることが多いのが現状です。では具体的に市街化調整区域の不動産が売れない理由は何なのでしょうか?この章では5つの理由を解説していきます。
|再建築ができない
市街化調整区域では、原則として新たに建物を建てることができません。再建築したい場合には、都道府県知事からの開発許可が必要となり、その許可は容易に得られるわけではありません。
そのため、買主が不動産を購入しても新たに建物を建てるとなると許可を得るために多大な労力や手間がかかりますし、許可が下りずに建築できないというリスクがあるのです。
したがって、建物を建てることができない、あるいは建てるまでに手続きが非常に煩雑で時間がかかるため、土地の活用が難しく、買い手がつきにくくなるのです。
ただし例外として、市街化調整区域でも土地の所有者および6親等以内の親族が住む住宅であれば、再建築が可能になります。
|建て替えやリフォームがしづらい
市街化調整区域の土地は、再建築が制限されているだけでなく、既存の建物に関しても建て替えやリフォームに制約があります。建て替えやリフォームができる否かは、建物の容積率や建ぺい率に制限のほか、既存の建物に比べてどの程度まで延床できるかなど、自治体やその土地の条件によって決まります。行政に申請して許可を得る必要がありますが、許可が下りる条件が厳しい場合も多く、リフォーム計画の自由度が低くなるのが一般的です。このため、買い手は不動産の利用方法や将来的な維持・改修の困難さなどを懸念し、購入をためらうことが多いです。
|生活の利便性が低い
市街化調整区域では、新たな建物を建てることが基本的にできないため、商業施設の数が限られており、近くにコンビニやスーパーなどが無いケースがほとんどです。買い物するにも毎回長距離の移動が必要になるのは不便というほかありません。買主が家を購入する際の条件として、近隣に商業施設が整っているかどうかを重要視される方も多いことから、生活の利便性が低いということは大きな欠点といえます。
また、公共交通の便も整備が不十分であることが多く、日常生活での利便性が低いことから、住む場所としての魅力が劣るということは言うまでもありません。
しかし、最近では田舎暮らしを好む若年層も増えており、あえて生活の利便性が低いエリアを選ぶという人もいるかもしれません。ただ、まだ極少数といえますので全体的な需要が低いことに変わりはないでしょう。
|インフラ不足
冒頭でも解説した通り、市街化調整区域は一般の人が暮らすことを想定していないエリアです。そのため、建物が建っていない土地では、電気やガス、水道、下水道などのインフラが整っていない場合がほとんどです。買主が購入後に、新たにインフラを整備しようと思うと、数百万単位の高額な費用がかかる可能性もあります。
また、一見インフラが整っているように見える土地でも注意が必要です。市街化調整区域では浄化槽の設置が義務付けられることが多く、この浄化槽のメンテナンスを定期的に行う必要が出てきます。業者によって費用は異なりますが、こちらも数万円単位の金額がかかります。
このように、基本的な生活環境の整備にコストがかかったり、インフラ工事自体が困難であったりすることがあることから、生活に不便さを感じる可能性が高く、不動産の需要が低くなりがちです。
|住宅ローンを組みにくい
市街化調整区域にある不動産を住宅ローンを組んで購入する場合には、融資審査が厳しくなることがほとんどです。住宅ローンは、万が一返済が滞ったときのためにローンを組んで購入した不動産を担保にします。
市街化調整区域にある土地や建物は、一般的に評価額が低くなる傾向があるため、銀行や金融機関が住宅ローンの審査において担保評価を下げることが少なくありません。このことから融資が受けられない、もしくは融資額が限られる可能性があるのです。また、建築不可の土地の場合には、住宅ローン対象外としている金融機関がほとんどです。
買主がローンを組めないことで現金一括で購入するしかないなど、購入のハードルがさらに高くなり、売れにくい理由の一つとなっています。
市街化調整区域の土地を売るには
市街化調整区域にある不動産でも、購入を検討してくれそうな買い手に絞ってアプローチすることで、売却できる可能性は十分にあります。この章では、売却したい市街化調整区域の土地が「宅地または山林などの場合」と「農地の場合」、2つの例をご紹介しますので、ぜひご参照ください。
|宅地または山林など:不動産会社に売る
市街化調整区域にある不動産でも、既存宅地である場合には問題なく売却できる可能性が高いです。特に、以下のような不動産であれば市街化調整区域に位置していても売却しやすいといえます。
・開発許可を取得して建てられた建物が存在する不動産
・都市計画法の開発許可を要しない計画に適合している不動産
・開発許可が得られる可能性のある土地
ただし、市街化調整区域は流通している物件が少なく、特性のあるエリアなので、実績のある不動産会社を選ぶことが重要です。
市街化調整区域における売買の経験が豊富な不動産会社は、法的な制約や地域の特性を理解しているため、売却のアイデアを提案してくれるなど売却手続きをスムーズに進める可能性が高いです。
また、不動産会社に直接買い取ってもらうという選択肢もあります。新たに買い手を探す必要がなく、価格の折り合いが付けばすぐに不動産会社へ売却できるのがメリットです。特に、市街化調整区域内の土地は購入希望者が限られるため、不動産会社が直接買い取る「買取」という形での売却が現実的な選択肢となることが多いでしょう。ただし、条件によっては買取を断られるケースもありますので、まずは何社か探してみましょう。
|農地:農家や農業従事者に売る
市街化調整区域の農地は、農地法と都市計画法の両方の規制を受けるため、売却がしにくい不動産といえます。
市街化調整区域内で農地として指定されている土地は、農地として利用する必要がありますので、売却する際には、地域の農業委員会から許可を得ている農家や農業従事者に売るのが基本的な方法です。農地としての用途が認められているため、農業を営んでいる人や農業法人であれば、開発許可を受けずに自宅などを建てることができ、売却できる可能性があります。周辺で農業などを行っている人であれば、従業員用や来客用の駐車場が欲しいという可能性もあるため、隣地所有者には必ず声をかけてみましょう。
一方で、農地として売ることが難しい場合や農地以外の用途で利用したい場合には、「農地転用」の許可を得る必要があります。農地転用の手続きは、農地法の規制が厳しく、農業委員会の審査を通過することが必須です。この手続きを経ることで、農地以外の用途(宅地や工場用地など)としての売却も可能になる場合がありますが、手間や時間がかかるため慎重に検討する必要があります。