目次
不動産鑑定の基礎知識
不動産鑑定とは
不動産鑑定とは、国家資格を持つ不動産鑑定士のみが行うことができる不動産の評価です。鑑定士は、国の定める不動産鑑定評価基準に従って対象となる不動産を調査し、土地や建物の市場価値、公示価格、相続税評価額などを評価します。
評価後には、不動産鑑定評価書が作成されます。この評価書は、非常に高い精度の評価結果が記載されているため、税務署や裁判所などに提出する正式な書類として使われます。よく不動産査定と同じだと思われている方もいらっしゃいますが、不動産鑑定とは評価の目的や手続き、精度、法的な位置づけが異なります。不動産査定は、不動産会社などの仲介業者が行う売買や賃貸を前提とした評価であり、公的な拘束力はありません。また費用についても不動産査定は無料できますが、不動産鑑定には費用を要します。
不動産鑑定の流れ
不動産鑑定は、以下のような流れで進行します。
依頼先を決める
鑑定を依頼する不動産鑑定士をインターネット等で探し、依頼します。対象の不動産について、知識や実績が豊富な鑑定士を見つけることがポイントです。依頼する際には、不動産の登記識別情報(登記済権利書)や登記簿謄本、図面などの書類が必要になります。
資料収集と調査
鑑定士による現地調査と書類による調査が行われます。鑑定士が現地を訪れ、物件の状態、周辺環境、インフラ、法律規制などを確認します。これには建物の老朽度や敷地の形状、道路付けなど詳細な情報も含まれます
評価
調査・収集したデータをもとに、対象不動産の評価額を算出します。不動産鑑定評価には、「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」という3つの方法があり、これらの方法を組み合わせることによって、より精密に不動産の価値を算出します。
報告書作成
鑑定士は、最終的な評価額をまとめた報告書を作成し、依頼者に提出します。報告書は、調査の実施から10日〜数週間で提出されるのが一般的です。また、鑑定士が提出する報告書には、「鑑定評価書」「調査報告書」「価格査定書」などいくつか形式があるので、鑑定目的に合わせた報告書を依頼する必要があります。
不動産鑑定士の役割
不動産鑑定士は、不動産に関する専門知識はもちろん、経済や法律などの知識なども活用して、不動産の適正な価値を評価する専門家です。非常に難易度の高い国家資格を持ち、全国でも希少な人材といえます。
対象となる不動産について、地理的状況や法律性、市場性などさまざまな角度から調査、分析し、その結果をふまえて依頼者のニーズに合わせた適切なアドバイスを行います。
不動産鑑定士の主な業務としては、不動産売買における価格査定や賃貸借契約時の家賃判定、相続贈与時の不動産分配や価値評価など多岐にわたります。不動産鑑定士による鑑定を受けることで、適正価格を把握できることはもちろん、財産分与などの際に公平な遺産相続ができます。
また、不動産に関する裁判や納税の根拠を示さなければならない場面において、不動産鑑定士による鑑定価格が必要になります。
このとき必要になる、法的な拘束力をもつ「不動産鑑定評価書」の作成は、不動産鑑定士のみに認められています。
不動産鑑定費用の内訳
鑑定費用の相場
不動産鑑定費用は、不動産会社へ支払う報酬のように決まった計算式は存在せず、不動産鑑定事務所ごとに自由に設定されています。以前は「基本鑑定報酬額表」という基準価格が存在しましたが、現在では使わなくてもよいものになっています。
そのため、ここでは一般的な費用の目安についてをご紹介いたします。
地域による違いもあり、都市部では鑑定費用が高めに設定される傾向があります。
対象となる不動産 | 鑑定費用相場 |
土地のみ(住宅用地程度の広さ) | 20万円〜 |
土地のみ(大規模な広さ) | 30万円〜 |
建物のみ(一戸建て住宅) | 20万円〜 |
土地+建物(一戸建て住宅) | 25万円〜 |
マンション(一室) | 30万円〜 |
鑑定費用の内訳
不動産鑑定費用の内訳は、以下のような項目になっているのが一般的です。
- 基本料金
鑑定業務全体に対する基本的な料金です。不動産の規模や内容に応じて設定されます。
- 調査費用
現地調査や資料収集にかかる費用です。例えば、複数回の現地訪問や専門的な調査が必要な場合は、この項目に追加で加算される場合があります。
- 報告書作成費
鑑定評価書の作成にかかる費用です。より詳細な報告書を作成する場合や、特別な事情などがある場合は、追加料金が発生することがあります。
- 諸費用
交通費や郵送費、データ取得などにかかる費用が含まれます。
鑑定費用に影響する要因
不動産鑑定費用は、不動産の種類や所在地、鑑定の目的によって異なり、不動産の評価額が高ければ高いほど、鑑定費用も比例して高くなります。
具体的には、以下のような要因が影響を与えるものになるので参考にしてください。
また鑑定費用は、鑑定評価額をもとに決まるため、評価額を算出してからでないと鑑定費用も定まりません。鑑定を正式に依頼する前には必ず見積もりをとるようにしましょう。
・不動産の種類
戸建、マンション、土地などが不動産の種類にあたります。一般的な住宅よりも、商業施設や大規模開発用地の方が費用が高くなります。
・立地
対象不動産が都市部に位置する場合には、土地や建物の価格が高いため、鑑定費用も上昇する傾向があります。
・賃料や借地権など
賃貸物件の家賃や地代、借地権などの鑑定評価は費用が高くなる場合が多いです。
・鑑定の目的
例えば、売買のための鑑定と裁判に使用するのための鑑定では、必要な精度や分析の深さが異なるため、費用に差が出ます。
・納期
一般的に鑑定を依頼してから、資料収集、調査、評価などの経緯を経て、不動産鑑定評価書が提出されるまでには1ヶ月前後かかります。至急の納品が必要な場合には費用が高くなる可能性があります。
鑑定費用を交渉するコツ
鑑定費用を交渉して減らすための具体的な方法をいくつか紹介します。交渉の際に注意すべき点などにもふれていますので、ぜひご参照ください。
・複数の見積もりを比較
複数の不動産鑑定士に見積もりを依頼し、費用を比較することで交渉の材料とします。大手の事務所だけでなく、中・小事務所、地元の個人事務所なども含めるのがおすすめです。
・簡易鑑定を利用する
不動産鑑定評価書の内容を一部省略した「簡易鑑定」であれば費用が抑えられます。簡易鑑定には、「調査報告書」「価格調査書」「意見書」があり、鑑定の目的によってはこのような簡易鑑定で十分というケースもあります。ただし、不動産鑑定評価書とは違って法的な効力がないものになるので、その点に注意が必要です。
・料金の内訳を確認
前章でご紹介した費用内訳をもとに、どの項目にどのくらいの費用がかかるかを明確にし、必要に応じて交渉します。こちらも複数社の見積もりを比較することで、それぞれの項目ごとの妥当な料金目安をつけやすくなります。
不動産鑑定結果の活用方法
鑑定結果を利用できるシーン
不動産鑑定の結果は、様々な場面で活用することができます。
不動産売却時
不動産を売却する際に、売却価格が適正かどうかを確認するため、不動産鑑定を利用するケースがあります。
売却時には、不動産会社による無料の不動産査定を利用する場合がほとんどですが、査定内容にばらつきが発生している場合、何を基準に判断すべきか難しいことがあります。
そのような場合に不動産鑑定を利用することで、適正価格で売却を始めることができ、売主・買主双方が納得できる取引を進められます。
不動産相続時
相続する遺産や贈与財産の中に不動産が含まれる場合には、分配や納税のために不動産の適正な価値を知る必要が出てきます。
特に複数の相続人がいる場合、誰がどの遺産を相続するかを決める遺産分割協議の際に、相続対象となる不動産の評価額を明らかにしておくことが重要になります。
また、不動産鑑定で得られる鑑定書は、複数の相続人で遺産分割協議がまとまらない場合においても、裁判所や調停などで証拠として提示できるものなので、相続トラブルを避けるためにも有効な手段といえます。
相続税対策
不動産の相続税は、固定資産税評価額や路線価などに基づいて計算され、対象不動産の価値が高くなるほど税額も高くなります。しかし、不動産鑑定を依頼することによって、相続税を算出する際に使われる評価額を低くできるケースがあります。
不動産鑑定価格は、資料や現地調査に基づき、不動産の個別事情を考慮して算出するためです。結果、不動産鑑定評価額を使って相続税の申告をすることで、税金を大幅に節税できる可能性があります。
鑑定結果を基にした価格設定
不動産鑑定を依頼し、得られた評価額には法的な根拠はありますが、売却を考える際にその価格で売却が成功するかといえば、必ずしもそうではありません。そのため、単純な売買目的で対象不動産の価格を知りたいときには、不動産鑑定はあまり適切な方法とは言いにくいです。ただ、ホテルやゴルフ場など専門性の高い土地などの場合は、通常の売買でも鑑定が必要になることがあるでしょう。
一般的に、売却を目的として不動産の価格を出したい場合には、不動産会社に依頼する不動産査定が適切です。複数の不動産会社に査定を依頼し、査定額を参考に売却価格を決めるという流れで問題ありません。
法的な手続きに使う場合は不動産鑑定、そうでなければ不動産査定と覚えておくのが良いでしょう。
鑑定結果はトラブル防止につながる
不動産鑑定は、以下のようなトラブルを回避するために役立ちます。このようなケースの場合には不動産鑑定を検討すると良いでしょう。
・離婚の財産分与で揉めそうな場合
・不動産相続で揉めそうな場合
・親族間での不動産売買
・相続税の軽減の申告
・金融機関への担保額評価
・ビル・ホテルなど特殊な不動産を売却するとき
また、不動産鑑定事務所は多く存在しますが、鑑定士を選ぶ際のトラブルにも注意が必要です。不動産鑑定評価書の提出はあったが、その後のアドバイスなどは一切なかったなどの失敗談もあります。鑑定士を選ぶ際は、知識や実績が豊富であること、鑑定目的をしっかり伝えることなど、経験値や対応の柔軟性を見極めましょう。
不動産鑑定のその他の活用法
解説してきた以外にも、リースバックなどで不動産鑑定結果を活用する方法もあります。
不動産売却においてリースバック契約を結ぶ場合には、不動産鑑定を利用して適正なリース料を設定することができます。リースバックとは不動産を売却した後も、引き続きその不動産を使い続けられるという仕組みです。例えば、リースバック契約で居住している戸建を売りに出した場合、売却後もその戸建に住み続けることができます。
また、相続時などで不動産鑑定に出した不動産を、将来的に売りに出す際に、以前の鑑定結果を参考することもできます。
このように、不動産鑑定結果を最大限に活用し、効率的な不動産運用につなげましょう。