個人がアパートなどの不動産を相続する際に「不動産管理会社を建てる」という方法があります。不動産管理会社は「資産保有型会社」と「資産運用型会社」の総称です。
アパートを相続した場合は、不動産管理会社の「資産保有型会社」である不動産管理会社が多く建てられます。資産保有型会社は預金や不動産などの「特定資産」の割合が、総資産の70%を超える会社です。
本記事では、不動産管理会社を建てる際に必要な知識について紹介します。
不動産管理会社設立の基本知識
不動産管理会社設立の目的
不動産管理会社は、家やアパートといった不動産を、資産として管理することを目的に設立する会社です。一般的に「会社」といわれる、利益を追及する会社組織ではありません。
不動産管理会社によって得られる収入は、アパートの住人からの賃貸収入や、保有株式の配当収入などがあります。
不動産管理会社を設立する目的はアパートの資産管理ですが、設立する意義としては「相続後の資産管理が簡単になる」「税金対策ができる」の2点が挙げられます。
相続後の資産管理が簡単になる
不動産管理会社の所有するアパートを相続する際は、株式を渡す形になります。複数人で1つのアパートを遺産分割するとトラブルが発生しやすいです。株式数を調整するだけでよいため、不動産管理会社は相続後の管理が簡単になります。
税金対策ができる
不動産管理会社を建てることで、所得税を節税できます。得た収入を家族や親族などの複数人で役員報酬として分配できるため、一人当たりの所得を抑え、所得税の税率を低くできるためです。
役員報酬には所得控除を使える点も税金対策につながります。利益にかかる税金を法人税としてカウントできるうえ、相続税の課税対象にならないため、さまざまな点から節税可能です。
法的な設立手続き
不動産管理会社を設立する手続きは、一般的な会社の設立と同じです。以下の4ステップとなります。
- 定款の作成
- 資本金の支払い
- 登記申請書類の作成・提出
- 登記完了後の手続き
定款の作成
定款とは、会社や法人といった協同組合の目的・組織・活動に関する基本的なルールのことです。正しく手続きを行うことで公証人の認証を得られ、公的に証明できる定款となります。
以下は定款で定める項目の一例です。
- 商号
- 事業目的
- 本店所在地
- 出資者
- 事業年度
- 役員
定款の作成が難しい場合は、以下の専門家に相談することができます。
- 弁護士
- 行政書士
- 司法書士
法務局は定款に関して、さまざまな支援を行っています。定款作成支援ツールなどを利用する場合は、法務局のこちらのページをご覧ください。
出資金の支払い
発起人(会社設立の手続きを行う人)または取締役が持つ、個人の預金口座に出資金を入れます。
資本金の「払込証明書」は法務局に提出します。払込証明書を提出するため、以下の3つのページをコピーしましょう。
- 通帳の表紙
- 通帳の1ページ目
- 出資金の振込が記載されているページ
登記申請書類の作成
登記申請書類は法務局に提出します。申請書類には以下が挙げられます。
- 代表者の実印(代表者印)
- 実印の印鑑届出書
- 就任承諾書
- 出資金の支払いが記載された通帳の写し(払込証明書)
就任承諾書は、重要な役員である「代表取締役」や「取締役」を選んだ場合、選ばれた本人が承諾したことを証明する書類のことです。
設立時取締役選任・代表取締役の記載が定款にありますが、どちらも発起人である場合は就任承諾書は不要です。
登記申請書類は法務局へ提出します。登記完了の目安は2週間以内です。
登記完了後の手続き
登記が完了したら、登記事項証明書・印鑑証明書などを法務局で受け取ります。不動産管理会社の預金口座を開設するためです。
開業届を以下の3つの公的機関に提出しましょう。
- 税務署
- 都道府県税事務所
- 市区町村役場
税務署には、青色申告承認申請書などの提出も必要です。
必要な資金と運営体制
必要な資金
不動産管理会社を設立するためには、法人の設立登記費用がかかります。株式会社の設立には、以下の費用などが発生し、必要な資金の目安はおおよそ25万円です。
- 定款認定費用:3~5万円
- 定款印紙税:4万円
- 登録免許税:15万円~
- 会社用の印鑑作成費用や印鑑証明書にかかる手数料など
定款認定費用は会社の資本金額に応じて変更します。以下の表は資本金額と定款認定費用の一覧です。
資本金額 | 定款認定費用 |
100万円未満 | 3万円 |
100万円以上300万円未満 | 4万円 |
300万円以上 | 5万円 |
定款認定費用は年によって変わることがあるため、日本公証人連合会のサイトから確認しましょう。
定款印紙税は、電子定款の場合は必要ありません。電子定款ではない場合は、公証人保存原本に収入印紙を添付し、納めます。
登録免許税は法務局に納めます。登録免許税は資本金の額によって税率が変わりますが、申請件数が1件につき最低15万円かかる税金です。詳しく知りたい場合は、登録免許税の税額表をご確認ください。
不動産管理会社用の印鑑を作成する場合は、作成費用が発生します。印鑑を登録するために必要な印鑑証明書は450円、登記事項証明書代は600円など、さまざまな費用がかかることに留意しましょう。
運営体制
不動産管理会社を設立する運営体制には、3つの方法がありますが、個人所有のアパートの相続におすすめの体制は「不動産所有方式」です。
- 管理委託方式
- サブリース方式
- 不動産所有方式
3つの違いは以下の通りです。
管理委託方式 | アパートの管理業務を法人に委託し、管理料を収入として得る |
リース方式 | 個人の不動産を購入し、家賃を収入として得る |
不動産所有方式 | 会社を設立し、直接アパートを運用する |
所得税の節税には、3つとも効果的です。
相続税に関して節税をしたい場合は、不動産所有方式を検討しましょう。不動産所有方法でアパート管理の会社を設立することで、不動産の所有が法人となり、アパートが課税対象になることを防げます。
アパート相続で不動産管理会社設立のメリット
節税になる
不動産管理会社を設立することで得られるメリットのひとつは、節税につながる点です。
個人の所得税を抑えられること、そして相続人の相続税を減らすことができるため、不動産管理会社の設立は節税対策になります。
個人所得に対し、所得に応じて税率が上がる所得税が課せられます。家族や親族などを会社の役員とすることで、アパートによって得た利益をそれぞれに役員報酬として分配することが可能です。
家族それぞれに所得税が課せられるため、税金による支払いによって不動産管理会社の利益を減らさずにできます。
役員がもらえる給与所得には「給与所得控除」が適用されます。給与所得控除は収入額に応じて控除される制度で、不動産管理会社のほかから給与を得ていない場合に受けられる控除です。人数に応じて節税ができる、といえます。
相続税が抑えられる理由には、評価額の違いが関わっています。不動産そのものは固定資産税評価表で評価額が決まりますが、不動産管理会社は株式により評価額が決まります。
一般的に会社の株式は不動産よりも低く評価されるうえ、法人税相当額を差し引いて算出されるため、不動産管理会社設立によって相続税の節税が可能です。
遺産分割しやすくなる
不動産管理会社を設立しアパートを管理することで、遺産分割が容易になります。相続人が複数いた場合でも、株式の株数を調整するだけで済むためです。
アパートそのものを複数人で遺産分割する場合は、相続人同士のトラブルが発生しやすくなります。アパートを物理的に分けることは不可能なため、アパートを売却したり、売却によって得た財産を分割したりしなければいけません。アパートの売却には時間と手間がかかり、スムーズに進まないことがあります。
不動産管理会社を建てることで、相続にかかる費用と手間を大幅に抑え、トラブルを防ぐことが可能です。相続人が複数人いる場合は、不動産管理会社を建てることによるメリットは大きいといえます。
アパート相続で不動産管理会社設立のデメリット
費用がかかる
不動産管理会社を設立すると、法人設立費用と不動産維持・運用費用の2つが必ず発生します。
不動産管理会社を設立するためにかかる費用として、以下が挙げられます。
- 登録免許税
- 定款認証手数料
- 定款謄本代
- 印紙代
- 司法書士への依頼料(依頼した場合)
アパートを個人の所有から会社の所有へと変えるため、個人は譲渡所得税を納める必要があります。会社として発生する費用は不動産取得税や登記費用です。
所有を変えるためにはさまざまな費用が発生し、最低でも費用は10万円を超えます。
法人化することで、法人税を支払う必要があります。利益がある場合に納める税金は法人税・地方法人税・法人住民税の3つです。
法人住民税は赤字であっても納めなければいけません。会計や申告といった経理の手続きを依頼する場合、税理士への費用が発生します。
アパートを相続した後に不動産管理会社を設立すると、避けられない費用が発生する点は負担の大きなデメリットのひとつです。
手間がかかる
不動産管理会社を設立すると、設立までに手間がかかり、設立後もさまざまな手続きに追われます。デメリットに挙げられるのが、不動産管理会社を建てるとやることが増え、忙しくなる点です。
役員がいる場合は、役員報酬を計算する業務があります。アパートを賃貸として活用している場合は賃貸収入を管理する必要もあり、会計に関する業務は毎月発生します。
役員が多い場合、株主総会や取締役会といった決議も必要になります。決議の日程調整なども時間と労力がかかる業務のひとつです。
会計帳簿・決算書・法人税申告の書類手続きなど、不動産管理会社を設立すると、支払い以外の業務も多くなります。
本職を持っている人にとっては、不動産管理会社を建てることは時間を捻出しなければいけません。
税金の負担が増える可能性がある
アパートを法人管理にすることで課される税金として、法人税や法人住民税、消費税などが挙げられます。
個人の所得があまり大きくない場合は、所得税よりも、課される法人税の方が高くなることがあり得ます。節税対策のために法人化することで、反対に高い税金を納めることになるため、節税効果がありません。注意しましょう。
アパートを法人管理に移転することで、「小規模宅地等の特例」が適用できなくなります。小規模宅地等の特例は、個人が相続開始直前まで、事業用または居住用に使われていた不動産の相続税に対し、減額する措置です。
個人で所有する不動産に対し、赤字が出た場合、「不動産所得が赤字のときのほかの所得との通算」が可能です。通算することにより、所得税に関する税金を低く抑えることができます。
法人に対してはこの通算ができません。不動産管理会社のアパートに赤字が多い場合は控除や特例が使えず、税金の負担が大きくなる可能性があります。
まとめ
不動産管理会社とは、アパートなどの不動産を個人の所有ではなく、法人のものとして管理するために設立する会社です。アパートを管理するためだけに設立されます。
不動産管理会社を設立するためには、定款の作成や登記書類の準備、開業届の提出などを行います。一般的な会社の設立と同じ手順です。
不動産管理会社を建てることのメリットは、所得税の節税ができたり、遺産分割をスムーズにできたりすることです。デメリットは手間がかかること、設立費用や維持費用がかかることが挙げられます。
不動産管理会社を設立する際には、不動産管理会社によるメリットを得られるかを検討する必要があります。税理士や弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。