共有名義での相続とは
共有名義の種類
相続登記には、主に「法定相続分による相続登記」と「共有分割による相続登記」の二つの方法があります。
まず、法定相続分による相続登記について説明します。
法定相続分とは、民法に基づいて定められた相続人ごとの相続割合のことです。
この方法による相続登記は、相続人が法定相続分に従って不動産を相続する場合に行われます。
この方法の特徴は、各相続人の相続分が法律で自動的に決まるため、相続人間で特別な合意がなくても、その割合に従って登記が行われる点です。
これにより、手続きが比較的シンプルで迅速に進められるという利点があります。
まず戸籍謄本や除籍謄本を用いて相続人を確認し、相続関係説明図を作成します。
その後、登記申請書を作成し、必要な書類(被相続人の戸籍謄本、相続人全員の住民票、固定資産評価証明書など)を準備して、法務局に提出します。
一方、共有分割による相続登記は、相続人全員が協議して不動産の持分を決定し、登記する方法です。
この方法では、法定相続分とは異なる割合で不動産を相続することができます。
共有分割の特徴は、相続人間の合意に基づいて柔軟に割合を決定できる点です。
しかし、全相続人の同意が必要なため、協議に時間がかかる場合があります。
まず相続人全員で不動産の分割割合について話し合い、合意を得ま後、合意内容を記載した遺産分割協議書を作成し、全相続人が署名押印します。
そして、登記申請書を作成し、必要な書類(被相続人の戸籍謄本、相続人全員の住民票など)を準備して法務局に提出します。
共有名義のメリットとデメリット
まず、共有名義で不動産を相続するメリットについて説明します。
第一に、共有名義は相続人全員が公平に財産を受け取る手段として機能します。
法定相続分に従って不動産を共有することで、特定の相続人だけが利益を得ることなく、全員が持ち分に応じて権利を持つことができます。
これにより、相続人間の公平性が保たれるため、相続に関する争いを避けることができる場合があります。
第二に、共有名義は一部の相続人が即座に不動産を処分するリスクを軽減します。
共有者全員の同意がなければ不動産の売却や貸し出しができないため、不動産が安易に処分されることを防ぐことができます。
一方で、共有名義で不動産を相続することにはデメリットもあります。
共有名義の不動産は意思決定が複雑化します。
何かしらの決定(例えば、売却、賃貸、改修など)を行う際には、共有者全員の同意が必要となります。
このため、共有者間で意見が対立すると、意思決定が停滞し、不動産の管理や運用が難しくなることがあります。
次に、共有名義の不動産は将来的な相続がさらに複雑になり得ます。
共有者が死亡した場合、その持ち分をさらに相続することになり、共有者の数が増えることで、不動産の管理がますます困難になる恐れがあります。
最後に、共有名義の不動産は各共有者が持ち分に応じた税金や維持費を負担しなければならないため、経済的な負担が増える可能性があります。
特に、不動産の収益が十分でない場合や、共有者が多くなると、負担が重く感じられることがあります。
共有名義のアパート相続で起こりやすいトラブル
評価額のトラブル
アパートの評価額を決定する際には、主に「時価」と「相続税評価額」の二つの基準があります。
時価とは、市場で取引される際の実際の価格を指します。
これは不動産の現時点での市場価値を反映したものであり、不動産会社や専門家による査定が必要です。
一方、相続税評価額は、相続税の計算のために国税庁が定めた基準に基づいて評価される価格です。
一般的に、相続税評価額は時価よりも低くなる傾向があります。
土地の場合は路線価、建物の場合は固定資産税評価額を基に算出されます。
例えば、父親が所有していたアパートを相続する際、相続人の一人が時価に基づいた高額な評価を主張したのに対し、他の相続人は相続税評価額に基づいた低い評価を求めるなどのケースがあります。
評価額の差が大きいと相続人間で深刻な対立が生じ、最終的には家庭裁判所での調停に発展します。
共有名義のトラブル
共有名義にした場合のトラブルの主な要因は、意思決定の複雑さと共有者間の意見対立です。
共有名義では、不動産の売却、賃貸、修繕などの重要な決定を行う際に、共有者全員の同意が必要になりま共有者の意見が一致しない場合、意思決定が滞り、不動産の管理や運用に支障をきたすことがあります。
例えば、兄弟3人で共有名義で相続したアパートについて、兄が売却を希望し、妹が賃貸を継続して収益を得ることを主張しています。
もう一人の弟は、将来の価値上昇を見込んで保持するべきだと考えていました。
意見の対立により、管理費や修繕費の負担を巡っても争いが生じ、最終的には共有者間の関係が悪化しました。
このように、共有名義にすることで意思決定が困難になり、結果的にトラブルが発生することがあります。
債務相続のトラブル
債務相続では、相続人が被相続人の借金や負債を引き継ぐことになりますが、その負担割合や債務の内容について合意が得られない場合、トラブルが発生します。
また、相続人が相続債務の存在を知らなかったり、予想以上の債務が存在したりする場合も問題となります。
例えば、父親の死後に相続を行い、父親には多額の借金がありましたが、遺産として残された不動産や現金は少額でした。
兄弟の一人がこの事実を知らずに相続を承認してしまい、その後に多額の借金を負担することになってしまい、兄弟間で負担割合についての意見が対立し、特に一人が借金の全額を負担することに反対したため、関係が悪化するなどの例が考えられます。
トラブル回避の方法
現物分割
遺産をそのままの形で分割する方法です。
例えば、土地や建物などを物理的に分けて相続人に分配します。
メリット
各相続人が具体的な財産を直接取得できるため、管理や利用がしやすくなります。
また、相続人間での争いが少ない場合、手続きが比較的簡単です。
デメリット
物理的に分割できない資産(例えば、絵画や高価な家具など)の場合、分割が困難です。
また、分割によって資産価値が下がる可能性があります。
代償分割
相続人の一人が現物を取得し、他の相続人にその分の代償金を支払う方法です。例えば、Aさんが土地を取得し、その価値に見合う金額をBさんに支払うという形です。
メリット
物理的な分割が困難な場合でも、公平に分割できるため、相続人間の不公平感を減らすことができます。
デメリット
代償金を支払う相続人にとっては、資金負担が大きくなる場合があります。
また、相続人間で代償金の金額について争いが生じる可能性があります。
換価分割
遺産を売却し、その売却代金を相続人で分配する方法です。例えば、不動産を売却して得た現金を分割します。
メリット
分割が難しい資産を現金に変えることで、公平に分配できるため、相続人間の争いを避けやすくなります。
デメリット
売却手続きに時間がかかる場合があり、売却価格が期待より低くなることがあります。
また、相続人が財産を現物で受け取りたい場合、希望に添えないことがあります。
共有分割
遺産を共有名義で相続人全員が共同で所有する方法です。
例えば、兄弟3人で一つの不動産を共有します。
メリット
各相続人が平等に所有権を持つため、公平性が保たれます。
また、特定の相続人が財産を独占するリスクを減らすことができます。
デメリット
共有名義では意思決定が複雑化しやすく、売却や賃貸などの重要な決定には全員の同意が必要です。
意見の対立が生じると、不動産の管理や利用が難しくなる場合があります。
アパート相続に必要な手続き
相続人と相続財産の確定
相続人の調査は、被相続人の戸籍謄本を取り寄せることで行います。
出生から死亡までのすべての戸籍を確認し、相続人全員を特定します。
一方、相続財産の調査は、被相続人の財産目録を作成し、不動産、預貯金、株式などの財産を確認します。さらに、負債も含めた全財産を確定させます。
遺産分割協議
遺言書がある場合は、遺言書に基づいて遺産分割協議を行い相続人全員が合意する必要があります。
遺言書がない場合は、法定相続分に基づいて協議を行い、全相続人の同意を得ることが求められます。
遺産分割協議書は、合意内容を文書にし、相続人全員が署名押印します。
提出時には、署名漏れや書類不備がないよう注意が必要です。
相続登記申請
アパート経営を相続する場合、相続登記が必要です。
手続きには、被相続人の死亡を証明する戸籍謄本、相続人全員の住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などです。
登記申請書を作成し、必要書類と共に法務局に提出します。
提出時には、書類の不足や記載ミスがないように注意することが重要です。
相続税の申告
相続税の申告は、被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内に行う必要があります。
申告書は、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。
申告には、相続財産の評価額を基に計算した相続税額を記載し、相続人全員の署名が必要です。
納税も同じ期間内に行う必要があり、期限を過ぎると延滞税が発生するため、期限内に対応しましょう。