高齢化社会と呼ばれる現代では「空き家」が大きな問題になっています。
その裏には、所有者の高齢化や死亡により適切な維持や管理ができず、結果的に空き家になってしまうというケースも数多いです。
今回は「空き家の所有者が死亡した場合」に焦点をあて、空き家の取り扱いや活用方法について成功事例と合わせてご紹介します。
具体的な活用例や自治体の支援制度もまとめているので、ぜひ最後まで読んで活かしてください。
空き家の問題と所有者の死亡
ここでは、所有者の死亡が空き家問題にどのように関わるのか解説します。
空き家問題の現状
日本では空き家が年々増加しています。
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、1988年から2018年の20年間で空き家の数は576万戸から849万戸に。約1.5倍も増加していると報告されています。
この中でも、周囲に危害を加える可能性の高い「特定空家」等は約2万戸、適切に管理されていない空き家は約24万戸にのぼります。
さらに、自治体が所有者を特定する手続きを行った結果、全体の約9%である57.2万戸が所有者不明と判明しました。この57.2万戸の空き家には、所有者が亡くなったケースも多く含まれるでしょう。
これらの問題を受け、国や自治体も様々な取り組みを行なっています。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」が改訂されたほか、自治体や民間事業者が「空き家対策総合支援事業」や「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」を実施しています。
空き家問題の深刻さが増す一方で、解決のための制度や補助も少しずつ整いつつあるのです。
所有者の死亡が空き家問題を深刻化させる理由
空き家問題を深刻化させている大きな理由に、所有者の死亡があります。
特に以下のような場合は、法的な相続がされずに放置されるケースが多いです。
- 家の所有者が死亡したが相続人がいない
- ひとり暮らしをしていた所有者が死亡した
- 子どもや親族が遠くに住んでいる
国土交通省が調査した「空き家の取得経緯・所有者の移住地との関係」では、空き家の取得経緯は相続が約55%というデータが出ています。つまり、空き家を所有している人の半分以上が、相続により所有権を得ているということです。
また、現在空き家を所有している人の約3割は遠隔地に住んでおり、空き家まで車や電車等で1時間以上かかる場所に住んでいます。相続人が遠方に住んでいる場合は十分な管理ができずに空き家が放置されることも多いのが現状です。
この他にも、群馬県前橋市では所有者が死亡しても相続人不明が続き、最終的に撤去された事例もあります。
所有者が亡くなり相続人が不明のまま、空き家は放置され続けました。近隣住民から対処要望があったものの、所有者不明のまま対処されなかった結果、大雪により屋根が崩落。略式代執行により、空き家は撤去されました。
ー群馬県前橋市の事例
所有者死亡後の空き家の法的問題
相続人不在や相続放棄の問題
所有者死亡後の家の所有権は、通常「亡くなった所有者の配偶者」と「子ども」に2分の1ずつ配分されます。
所有者の配偶者がいない場合は「子どものみ」に財産が渡され、子どもがすでに亡くなっている場合は「孫」が相続人になります。いずれもいない場合は「所有者の父母」もしくは「所有者の兄弟姉妹」になります。
所有者が超高齢で亡くなると、相続人となる「配偶者」や「子ども」もすでに亡くなっているケースがあります。その場合は民法に基づき、国が空き家の所有者となります。
近年では相続放棄を希望する人もいますが、必ず放棄できるわけではありません。相続放棄には「相続財産清算人」が必要となるため、単純な放棄は難しいのです。
固定資産税の未納問題
家と土地を所有すると、固定資産税を支払う必要があります。空き家を相続した相続人には、固定資産税の支払い義務があります。
万が一亡くなった元所有者が固定資産税などを納めていなかった場合は、相続人が未納分を支払う必要があります。
定められている期間内に固定資産税を納めないと延滞税が追加されます。
※延滞税の詳しい計算方法は年度によって異なります。詳しくは国税庁のサイトをご参照ください。
これら固定資産税の支払いを滞納すると「督促状」にて通知が届き、対応しないまま放置すると財産差し押さえの事態まで発展します。こうなるとクレジットカードが使用不可になったり給料が引かれたり生活にも支障が出ます。督促状が届いたら速やかに支払うか、難しい場合は早めに自治体に相談しましょう。
所有者死亡後の空き家対策
行政による対策
行政が行っている空き家対策に「空家対策特別措置法」があります。
この法律は2023年12月13日より施行された新しい法律です。
これまでも空き家に関する法律は「空家等対策の推進に関する特別措置法」がありました。
しかし、今回の新法ではそのままの状態にしておくと倒壊や危険となる可能性の高い「特定空家」に加え「管理不全空家」も市町村の指導・勧告対象となりました。
空き家問題の深刻化に備え、行政が行っている対策は以下のものがあります。
- 空き家対策総合支援事業
- 空き家を活用したい所有者が支援が受けられる
- こどもみらい住宅支援事業
- 空き家などの家をリフォームすると、補助金を得られる
- 長期優良住宅化リフォーム推進事業
- 空き家などの家の性能を上げるリフォームをすると、補助金を得られる
福岡県飯塚市の例
所有者が亡くなった空き家問題の事例として、福岡県飯塚市の略式代執行があります。所有者が亡くなった後に空き家となり、30年以上管理不全状態が続きました。
屋根や床の崩落により近隣住民から対処要望が募り、福岡市は相続人調査を実行。相続人是認が相続を放棄したため、福岡市は略式代執行を行いました。
民間による対策
行政だけではなく、民間も空き家対策に取り組んでいます。
以下は民間企業による空き家対応策です。
- 「産」「官」「学」による、空き家流通及び利活用モデル構築事業
- “負”動産から“富”動産へ‼ステップアッププロジェクト
- 「自治会」×「NPO等」による空き家対策等マネジメント事業
- 自治会等による「空き家の発生予防・適正管理活動」実践モデル事業
- 終活プランの相談窓口開設と委任契約をもとにした終活プランの実行による自宅の空き家化防止
参考:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001407762.pdf
「産」「官」「学」による、空き家流通及び利活用モデル構築事業
茨城県水戸市では、空き家問題を解決するために利活用モデルを構築しました。
CANVAS合同会社と茨城大学が行った取り組みは以下の4つです。
- 中心市街地の空き家・空き店舗の調査・抑制
- 空き家問題を一般の人に理解してもらう相談会
- 新たな事業を試せる場を提供し、空き店舗を使った利活用方法を実践
- SNSによる広報
成果として、以下の4つが挙げられています。
- 学生による空き家調査
- 抑制のためのランチマップ作成
- 利活用アイディアを実践
- 空き家に関する相談会を実施
学生に学びの場を提供したほか、空き家問題解決に向けた取り組みにも繋がりました。
所有者死亡後の空き家活用策
リノベーションや賃貸化などの具体的活用方法
空き家は以下のような利益を生むビジネスにも活用できます。
- 空き家を賃貸として貸し出す
- 空き家をリノベーションして売る
- 空き家をリノベーションして貸し出す
- 新築の家やアパートを建てる
- 駐車場として運用する
- トランクルームとして運用する
- 貸し農園として運用する
駐車場として運用する方法は、賃貸として売り出す・貸し出すよりも低コストで始められるというメリットがあります。予算の目安は約200万~500万円程度です。デメリットは、更地にする必要があること、土地の上に家がないため「住宅用地」としての税の減免措置が行われない点などが挙げられます。
貸し農園として運用すると、初期費用を抑えられるメリットがあります。デメリットはあまり収入が期待できないこと、自治体の許可を取る必要があることです。
もし空き家の築年数が20年を超えていない場合は、賃貸として安全に貸し出せます。築年数20年の物件は耐震性の基準を満たしているため、本格的な工事をやり直さずに売り出せるのです。
空き家の維持には約35万から50万が必要とされています。
維持費用をかけて空き家のままにする以外にも、貸し出したり売り出したりすることで利益を生み出せることを覚えておきましょう。
活用成功事例の紹介
ここでは、特定空家など所有者不明の空き家を活用した事例を2つ紹介します。
埼玉県八潮市の例
空き家を高齢者の健康維持や生きがいを見つけるための場所「高齢者ふれあいの家」として活用しています。
2023年5月までに、7つの高齢者ふれあいの家が運営されています。空き家を活用する人に対して行われている助成は以下のとおりです。
- 開設の準備費用
- 毎月の家賃
- 参加人数等に応じた管理運営費
八潮市役所長寿介護課地域包括ケア推進係によると、高齢者ふれあいの家は「地域における高齢者の社会的孤立を防止し、心身の健康維持や介護予防のために、空き家などを活用して、健康づくりや生きがいづくり等の趣味活動などを行う、高齢者の交流の場」です。
参考:https://www.city.yashio.lg.jp/kenko/kaigohoken/kaigohoken_simin/koureisyahureainoie.html
生活支援コーディネーターが開設の支援を行うため、空き家の所有者自身が社会福祉事業に詳しくなくても相談しながら空き家を活用できます。
石川県能美市の例
石川県能美市では、伝統工芸品作成などの「ものづくり」のための場所づくりや、事業のための場所として空き家を活用しています。
同市では2013年時点で一戸建ての空き家が433戸ありました。実に全体の約3%の家が空き家でした。この空き家を活用するために、能美市は以下の経済的支援を行っています。
- 空き家清掃費補助金
- 空き家バンクに登録した空き家の清掃費用等を補助
- 空き家改修費補助金
- 空き家バンクに登録した空き家の改修費を補助
ワーク・イン・レジデンス制度は2つに分かれており、同市役所地域振興室によると「対象職種の店舗や工房等兼住宅を開設・改修等行う費用の一部を補助」する制度です。
- 一般型
- 伝統的工芸品後継者育成型
参考:https://takken-ishikawa.or.jp/images/842-8.pdf
伝統的工芸品後継者育成型を活用した事例のうち8つは、九谷焼の工房として利活用され、地域活性化にもつながっています。
所有者死亡後の空き家問題とその対策
空き家問題への対策の重要性
これまで日本の空き家対策はあまり厳格ではありませんでした。
そのため20年間で空き家は約1.5倍に増加し、社会的な問題のひとつとなっています。
空き家が増えている原因は、家を所有している人の高齢化です。所有者が80代以上と超高齢であるケースも多く、そうなると相続人もすでに高齢に。結果的に相続する人がいないという事態を引き起こしています。
空き家は年々増加しているため、国を挙げて対策が行われています。具体的にできる策は、所有者が存命のうちに手続きを済ませることです。
また、空き家の所有者への取り組み事例としては、以下のものがあります。
- 富山県砺波市
- 市の広報誌に特集記事を掲載
- 高齢者向けのセミナーを開催
- 秋田県湯沢市
- 啓発チラシの提供
- 死亡届の提出時・高齢者施設への入居時に、相続人の連絡先を聴取
近隣への悪影響を及ぼしかねない空き家などの所有者に対しては、以下のような対策も行われています。
- 和歌山県田辺市
- 空き家所有者が遠方に住んでいる場合や高齢である場合、解体や修繕のためのサポートを行う
- 佐賀県白石町
- 相続登記がされていない空き家に対して、総関係図を柵瀬氏、法定相続人としての位置を説明
参考:https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_r1fu_15mlit_287_1.pdf
未来の空き家問題に向けて
空き家を生み出さないためには、所有者が亡くなる前に相続人と相談しておくこと、相続人をはっきりとさせておくことが大切です。家を含む財産の登記簿もしっかり残しておきましょう。
所有者が死亡した空き家は、さまざまな方法で利活用できます。駐車場や賃貸として利用するほか、最近では古民家をリノベーションして、訪日客向けのゲストハウスにする事例もあります。
空き家は、放置しても何も解決しません。
むしろ固定資産税がかかるほか、納税を忘れてしまうと相続人の持つ財産が差し押さえられる可能性もあります。
空き家になった時点で早めに対策を考え、場所や築年数によって新しい活用方法を見つけましょう。具体的には、駅や大型商業施設付近なら駐車場としての利用、住宅街にある空き家は賃貸としての利用が見込めます。
空き家の活用方法は、家の買取やリノベーションなどを専門にする企業への相談が最善策です。
見積もりや活用法を相談し、空き家をうまく活用しましょう。