「減価償却という言葉は聞いたことがあるけれど、詳しくは分からない」という人は多いのではないでしょうか。
家やアパートといった、経過日数によって劣化する資産は「減価償却」できる資産です。賃貸収入のあるアパートを相続すると、減価償却について学ぶ必要があります。
本記事では減価償却について詳しく紹介します。減価償却できる資産のことや、減価償却費を算出するための方法、減価償却の目的や利点などを知り、失敗しない確定申告を行いましょう。
減価償却とは
減価償却とは何か
減価償却とは会計処理のことで、アパートや家などの資産が古くなることで低下した価値を、帳簿上の建物価格から差し引くことを指します。
計算上ではアパートの全額を1年の会計処理で解決せず、数年かけて支払っていく手続きのことを減価償却と考えましょう。
国税庁では「減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続」(国税庁サイトより引用)と定めています。
減価償却する資産とは、時間が経つことで価値が減っていく資産です。相続したアパートは減価償却する資産に入ります。
以下の例は減価償却する資産の対象です。
- アパートや家などの建物
- 建物設備
- 機械
- 器具や備品
土地は減価償却する資産ではありません。減価償却しない資産としては、土地のほかに骨董品や美術品が挙げられます。
減価償却によって下がる価値は決められており、消費税法にある「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で、建物の構造や用途ごとの耐用年数や償却率が定められています。
減価償却の目的とメリット
減価償却を行う目的は損益計算の現状確認です。減価償却を行うことで資産と収益のバランスを明確にし、現在の資産状況を理解できます。
減価償却をせずに損益計算を算出すると、損益が正確ではなくなるうえ、税金が増える可能性もあります。
税金が増える理由としては、価値が下がっていない資産を所有していることになるためです。
法人の場合は減価償却は任意ですが、個人所得に関するものは減価償却する義務があります。
減価償却のメリットは、節税になるということです。アパートなどの価値の高い資産を長い年月をかけて償却することで、収益を減らし、課税される金額を抑えることができます。減価償却は「実際には支払いがない経費」のため、課税対象となる所得を低くします。
相続したアパートの減価償却計算方法
計算に必要な情報と条件
アパートを相続し、減価償却費を算出するために必要な情報は以下の4つです。
- 取得価格
- 耐用年数
- 経過年数
- 未償却残高
取得価格
アパートの購入金額です。売買契約書に記載されています。
耐用年数
償却年数のことです。建物の構造によって異なり、耐用年数を調べるためには国税庁が提供する「主な減価償却資産の耐用年数表」から確認する必要があります。
経過年数
アパートを建てた日から計算される日数です。相続や贈与によって得た資産の場合、日数は被相続人(相続する資産を渡す人)が取得した日から数えられます。相続した日ではない点に注意しましょう。
未償却残高
減価償却していない金額のことです。減価償却資産の取得価格から、償却し終えていない分の累積額を引いて算出します。
取得価格・耐用年数・経過年数・未償却残高は、相続によって変わりません。被相続人から引き継ぎ、減価償却費を計算します。相続した日から、アパートの耐用年数と経過年数を数えない点に気を付けましょう。
参照:国税庁ホームページ「相続により取得した減価償却資産の耐用年数」「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)
減価償却するための条件は、「使用期間が1年以上」および「取得価格が10万円以上」であるアパートであることです。
減価償却の計算手順
減価償却費を算出するには、以下の4つの償却方法があります。
- 定額法
- 定率法
- 旧定額法
- 旧定率法
減価償却を算出する償却方法の計算方法の違いは、アパートの取得時期です。
以下の表を確認しましょう。償却方法の選定は税務署に届出を出す必要があります。
取得した時期 | 償却方法 |
1998年(平成10年)4月1日以後に取得 | 「旧定額法」または「定額法」のみ |
2007年(平成19年)3月31日以前に取得 | 「旧定額法」や「旧定率法」など |
2007年(平成19年)4月1日以後に取得 | 「定額法」や「定率法」など |
2016年(平成28年)4月1日以後に取得 | 「定額法」 |
償却方法ごとの計算方法は以下の通りです。
定額法
毎年の減価償却費
- 各年の減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
定率法
1年目の減価償却費
- 1年目の減価償却費 = 取得価額 × 定率法の償却率
2年目の減価償却費:調整前の償却額が償却保証額を上回る場合(調整前償却額 ≧ 償却保証額)
- 2年目以降の各年の減価償却費 = 期首未償却残高 × 定率法の償却率
2年目の減価償却費:償却保証額が調整前の償却額を上回る場合(調整前償却額 < 償却保証額)
- 2年目以降の各年の減価償却費 = 改定取得価額 × 改定償却率
旧定額法
毎年の減価償却費
- 各年の減価償却費 = (取得価額 – 残存価額) × 0.9 × 旧定額法の償却率
旧定率法
1年目の減価償却費
- 1年目の減価償却費 = 取得価額 ×旧定率法の償却率
2年目以降の減価償却費
- 2年目以降の減価償却費 = 期首未償却残高 × 旧定率法の償却率
期首未償却残高とは、取得価額から前年度末までの償却費の総額を引いた額です。以下の計算式で算出できます。
期首未償却残高 = 取得価額 – 前年度末までの償却費の合計額
償却保証額は取得価額に保証率を掛けることで算出できます。
償却保証額 = 取得価額 × 保証率
詳しい計算方法については、弊社のこちらの記事をご覧ください。
参照:国税庁「減価償却資産の償却率等表」「No.2106 定額法と定率法による減価償却」「No.2105 旧定額法と旧定率法による減価償却」
減価償却の計算例
減価償却の計算方法として、例を使って紹介します。以下のアパートを相続した場合のケーススタディです。
相続した鉄筋コンクリート構造のアパート
- 取得時期:2020年1月1日
- 取得価格:2,000万円
- 用途:住居用
取得年度が2007年(平成19年)4月1日以後のため、「定額法」で算出します。定額法の計算式は以下の通りです。
各年の減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
建物の「耐用年数」を調べます。耐用年数表から建物の構造および細目を見ると、鉄筋コンクリート構造・住居用の建物は耐用年数が「47年」と書かれてあります。赤で囲った数字をご確認ください。
定額法の償却率を調べます。「減価償却資産の償却率等表」を見ると、「定額法の償却率表」に書かれてある数字は「0.022」です。該当する償却率が記載されている箇所は赤で囲っています。
ケーススタディで挙げた鉄筋コンクリート構造のアパートの場合、計算式は以下となります。
1年の減価償却費 = 2,000万円 × 0.022 = 44万円
44万円が1年の減価償却費となります。
減価償却の注意点
減価償却のよくある誤解と注意点
減価償却に関するよくある誤解
減価償却のよくある誤解としては、以下の3点があります。
- 減価償却をすると、相続した日から耐用年数を数える
- 相続したアパートの残存耐用年数は簡便法で算出できる
- 減価償却は土地と建物の両方が対象
1.減価償却をすると、相続した日から耐用年数を数える
相続したアパートの耐用年数は、アパートが建てられてからの日数を数えます。被相続人の耐用年数を引き継ぐためです。
2.相続したアパートの残存耐用年数は簡便法で算出できる
相続したアパートの耐用年数は、簡便法で算出しません。相続した場合のアパートは、中古資産の耐用年数の見積法及び簡便法の対象外です。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令によって、耐用年数は被相続人から引き継がれます。
3.減価償却は土地と建物の両方が対象
減価償却の対象は、アパートなどの建物といった劣化する資産です。土地は劣化しない資産のため、減価償却できません。
減価償却の注意点
相続で引き継いだアパートの償却方法は引き継がれません。定額法・定率法・旧定額法・旧定率法のいずれかを選び、届出書を出す必要があります。提出先は所轄の税務署長です。
届出書を出さなかった場合は法定の償却方法で算出されます。一般的には旧定額法または旧学法が採用されます。
アパートの確定申告時の注意点
アパートを相続すると、確定申告を行う必要があります。相続したアパートから家賃収入を得ることで、課税対象となる不動産所得税が発生するためです。相続したアパートによる賃貸収入が無い場合、確定申告は必要ありません。
確定申告とは、毎年1月1日~12月31日までの1年間に得た所得を、翌年の2月16日~3月15日に申請する手続きのことです。確定申告を行うことで、税金に関する過不足を調整することができます。
確定申告を行うためには、税務署へ確定申告書を持っていくほか、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」から確定申告書の作成・提出することも可能です。
確定申告の期限を過ぎると、延滞金が発生することがあります。期限内に確定申告を行い、納税しましょう。
被相続人が亡くなり、確定申告を行えなかった場合は、相続人が「準確定申告」を行う必要があります。不動産所得を得ているアパートを相続した場合は、相続人が自分に対して行う「確定申告」と、被相続人の代わりに相続人が行う「準確定申告」の2つがある点に注意しましょう。
確定申告については、弊社のこちらのページをご覧ください。
まとめ
減価償却とは会計処理のことで、アパートや家など、劣化する資産の購入価格を1年の会計処理で解決せず、数年かけて支払っていく手続きのことを指します。
土地や美術品など、経過日数によって劣化しない・価値の下がらない資産は減価償却できません。
減価償却費を計算するためには、取得価額・耐用年数・建物の構造と用途に関する情報が必要です。取得価額と耐用年数は被相続人から引き継ぐ点に注意しましょう。
アパートを相続し、不動産所得を得た場合は確定申告が必要です。確定申告に遅れると罰金が発生することもあります。アパートを相続した翌年には必ず確定申告を行いましょう。